「予・予告編」
小鉄が、決め技「必殺タマつぶし」を編み出した時のエピソードを語るショートストーリー。その技を覚えたのは“ガタロの梅若”との決闘の時。勝つためには手段を選ばない荒くれ猫、梅若は、電気ノコギリを持ちだした。ケンカには手練れの小鉄もさすがにたじたじになる。梅若が飛び込んで来たとき、小鉄はとっさに身を伏せると、頭上をくぐる梅若の股にソフトボールのようなものが二つ眼に入った。小鉄はそれを失敬した……。これが「必殺タマつぶし」誕生の瞬間である。
「予告編」
小鉄が若かりし頃のエピソードを語る。数々の武勇伝を残している小鉄だが、本人はケンカが好きではなかった。それにもかかわらず、血の気の多い猫が名をあげようと、次々と小鉄にケンカを売りにくる。小鉄はイヤイヤ相手をしているだけなのだ。イヤといいながらも楽しんでいるところもあったのだが……。しかし、ある日、人生の重荷を背負った子連れの猫が、杖を突きながら小鉄にケンカを申し込んできた。生活感の滲み出る風景が苦手な小鉄は本当にイヤになってしまう……。
「その1話」
小鉄が住所不定のさすらい猫だった時代の物語。長距離トラックの荷台からソーセージの箱を失敬して猫――後に小鉄と呼ばれる猫――が飛び降りる。眼下には集落が見える。人の気配は一切ないが、血生ぐささを感じる不気味な町。ここが噂に聞く「三途の猫町」であるとは旅の猫は知るよしもなかった。
「その2話」
荒涼とした通りを歩く旅の猫は、複数の猫に狙われている事に気付く。そのとき、一軒の家から拍子木を持って正午を知らせる猫が現れた。その猫は、旅の猫の呼び止めも聞かずにすぐ家へと戻る。直後に、ガラの悪い猫の集団が絡んできた。まさに一触即発というとき、突然もたれていた戸が開き、旅の猫は家の中へ転がり入る。そこには時を知らせた猫がいた。かつて「猫町銀座」と呼ばれたこの町は、九州と大阪の“ヤー猫”の抗争のまっただ中。時報の猫は二組の縄張りの境界「カタギライン」に住んでおり、旅の猫はそこに転がり込んだのだ。
「その3話」
旅の猫はカタギラインの電柱から抗争を眺めることに。抗争は正午からの一時間だけと決められているのだ。やがて出てきた額に“NL”の焼印を入れた地元のヤー猫“西鉄親分”が、縄で縛られたモヒカン姿の“猫質”を連れて登場。方や、ガラの悪い大阪弁をいいながら“モヒカン親分”も登場。「大阪強いで~」を連呼しながらカタギラインの境目で対峙する。西鉄親分は猫質であるモヒカン親分の息子、又八を返す条件として、ダイナマイトを五本渡すよう求めた。それを聞いたカタギ猫はダイナマイトの均衡が崩れると恐れた。
「その4話」
旅の猫はいい大人猫の口ゲンカを眺めていた。西鉄親分は十数える内にモヒカン親分に返事を求めた。しかし、カウントが「9」になったところで午後一時を迎えて抗争タイムは終了。帰り際にそれぞれの親分は旅の猫に誘いの言葉を掛けて家に戻る。やがて、カタギ猫から、かつて、この抗争は人間達が残したダイナマイトで連日のドンパチ騒ぎだったことを聞く。現在はそれぞれが十本のダイナマイトをもって均衡が保たれているのだ。それを聞いた旅の猫は、「ほんなら俺もだそおかなぁ」と一言。カタギ猫はひっくり返る。
「その5話」
旅の猫はカタギ猫を連れて街の外れに向かう。やがて箱にたどり着き、旅の猫は中身の棒をカタギ猫に投げ渡す。逃げるカタギ猫……。その正体は旅の猫がトラックから失敬したソーセージ。旅の猫はソーセージに泥を塗ってダイナマイトに見せかけ、地元ヤー猫の本拠地に乗り込もうというのだ。カタギ猫は無謀な事をし出す旅の猫に驚くばかり。西鉄親分の恐さを話し出す。狂がつくほどの「西鉄ライオンズ」ファンの親分の素性を聞く旅の猫だった。やがて旅の猫はソーセージを体に巻き、西鉄親分のもとへ向かう。
「その6話」
すんなりカタギラインを越えて地元組のシマに入った旅の猫。後から地元のヤー猫がぞろぞろ付いてくる。やがて西鉄親分の家に着いた旅の猫はヤー猫に取り囲まれるが、襲ってきたヤー猫を挨拶代わりにあっという間にやっつける。かくして旅の猫は西鉄親分に迎えられることに。西鉄親分は命知らずな行動を讃えるが、唯一、旅の猫の大阪弁が気に入らないという。しかし、旅の猫は「ファンはどこにでもいますよ」と西鉄黄金期の打順を語りだす。西鉄親分は表情を一変、旅の猫に最大級のもてなしを始める。
「その7話」
西鉄親分は旅の猫の“西鉄賛辞”に上機嫌。やがて、旅の猫に名前を問う西鉄親分。旅の猫は雷鳴が轟く外の景色を眺めて思いついた「雷蔵」の名を伝える……。話が天井から逆さ吊りになっている大阪親分の息子、又八の事に及ぶと、雷蔵はようやくこの場所にきた目的を自ら言い出した。又八を奪いに来たというのだ。西鉄親分は激怒し、雷蔵と闘おうとしたその時、雷蔵は身にまとっていたマントを脱いだ。胴をダイナマイトでくるんだ雷蔵をみて、西鉄親分は仰天する。
「その8話」
西鉄親分は雷蔵が出した自決覚悟の切り札をみて狼狽する。ダイナマイトの正体は単なるソーセージなのだが……。雷蔵は見事に又八を外に連れ出すことに成功。又八を“おみやげ”に今度は大阪親分の家に向かう。一方、雷蔵が大阪親分の回し者と思った西鉄親分は、本物のダイナマイトを用意して、大阪組のシマに乗り込む決意をした。雷蔵を迎えた大阪親分は、予断を許さない事態にもかかわらず、抗争時間ではないと悠長にコーヒーを飲みだす。
「その9話」
頭の回転が鈍い大阪親分に、雷蔵が事の重大さを諭している最中、ついに一発目のダイナマイトが爆発した。西鉄組のお礼参りが始まったのだ。一方的に壊されるの大阪親分のシマを、気絶した息子猫を抱えた雷蔵は遠くから眺めていた。その時、九州ナマリの怪しい二匹の猫が現れる。西鉄親分にそっくりな“弟”の「あいつ好かん」という声に、帽子をかぶった小柄な“兄”は沈黙していた。雷蔵は無気味な気配を感じていた。
「その10話」
沈黙のまま兄とにらみ合う雷蔵。やがて兄は弟が抱えている袋から何かを取り出し、雷蔵めがけて投げる。雷蔵は余裕でかわすが、兄は不敵な笑みを浮かべる……投げた物はブーメランだった。戻ってきたブーメランは雷蔵の後頭部を直撃。ノビた雷蔵と大阪親分の息子は二匹に捕らえられてしまう。その頃、西鉄親分は壊滅状態の大阪組のシマで勝利宣言をしていた。しかし、その直後の子分の報告を聞いて、顔色を変える。大阪ヤー猫が持っているはずのダイナマイトがどこにもないというのだ。西鉄親分はすでに八発を使った後だった。
「その11話」
翌朝。西鉄親分一派は、焼け野原となった大阪親分のシマで立ち尽くしていた。雷蔵を必死で捜索するが、姿はついに現れない。やがて、諦めて家に戻った西鉄親分は家の中にいた二匹の猫を見て驚く。なんと、スパルタ教育に嫌気がさして家を飛び出した息子兄弟が戻っていたのだ。二人の正体は長身の弟“フトシ”と無口な兄“カズヒサ”だった。カズヒサは、父親に向けて帽子を脱いでみせる。自らの手で、父親と同様に傷をいれた頭がそこにはあった。西鉄親分は改心した息子に感動する。
「その12話」
雷蔵は西鉄親分たちから拷問を受けていた。親分はダイナマイトの在処を聞き出そうとしていたのだが、雷蔵には身の覚えのないこと。逆にしつこく西鉄親分を挑発するのだった。しかしやがて気絶してしまう……。その頃、カタギ猫と棺桶屋の勘公は街の外れにいた。カタギ猫は、それまで風に乗って聞こえていたうめき声が途絶えたことに気付く。不慮の事故で自らの頭に釘を打ってしまった勘公は、昔の良き時代のまま記憶が止まったまま。見えない棺桶の前でトンカチを空振りして大繁盛だといい、カタギ猫を悲しませる。
「その13話」
天井から逆さ吊りにされた又八の血時計が鳴った。雷蔵の執行猶予の時間が終わった合図だ。西鉄親分はいよいよ雷蔵にとどめを刺そうとするが、息子のフトシが自分の新技「脳天崩しオランダ風車」を披露したいといい、止める。雷蔵を振り回し始めたフトシ……しかし、手が滑って雷蔵は天井を突き抜けて外へ飛んでしまった。慌てて雷蔵の行方を探す西鉄親分たち。その騒ぎは街外れのカタギ猫たちにも分かった。ひょっとしてまだ雷蔵が生きていると思った矢先、目の前の廃屋からボロボロの雷蔵が現れて仰天する。
「その14話」
西鉄親分一家の雷蔵捜しはつづく。屋根に登ったカズヒサが、街外れの死体の山に注目する。親分たちは死体の山に近づくことに。側にいたカタギ猫は固唾を飲んで展開を見守る。山を前にしたカズヒサが雷蔵を捜す術を考えているとき、遠くから「トンテンカン」の声に気付く。丘の上にいた棺桶屋の勘公を見つけて、しばらくみつめていた……。
「その15話」
カズヒサは勘公の体の模様が気になっていたが、親分の「構っている暇はない」の一言で再び山に注目。とうとうガソリンを撒いて山を燃やしてしまった。派手に燃える様に驚喜する西鉄親分……。一家が帰るまでの一部始終を背を向けて聞いていた勘公だったが、やがて倒れる……。雷蔵は勘公に変装していたのだ。カタギ猫の案内で廃坑の“隠れ家”に向かう。そこで雷蔵は本気で三途の猫町を潰すことを決意する。
「その16話」
カタギ猫がソーセージを持って隠れ家にやってきたが、雷蔵はいなかった。体がようやく動くようになり一人で小便に言っていたのだ。雷蔵はカタギ猫からカズヒサの武器、ブーメランの正体を聞き、興味をもつ。お調子者の弟のフトシをおだてて、ブーメランの型を取らせる作戦を思いつく。フトシはまんまと作戦に引っかかる。フトシのためにブーメランを作るというカタギ猫の言葉を信じ、泥を詰めた鍋をもって自分の家へ向かうのだった……。
「その17話」
大阪親分一家の壊滅以来、静寂がつづく三途の猫町。大阪親分の息子、又八はいまだ西鉄親分の家で“血時計”としてつるし上げられていた。フトシは今日もカタギ猫の家で酒のもてなしを受けていた。型を取って三日が経っても、なお完成しないブーメランにフトシは不満を述べる。そのやりとりを通りすがりのカズヒサが見つける。家に入ってカズヒサを問いつめる……。そのころ、雷蔵が作っていたブーメランがようやく完成した。
「その18話」
ブーメランの練習に余念がない雷蔵。しかし、うまくコントロールができずに失敗の連続だった。そのころカタギ猫は西鉄親分に袋叩きに遭っていた。雷蔵とグルだったことがばれたのだ。カズヒサはカタギ猫の家で見つけたソーセージを見て、雷蔵が生きていることを確信する……。一方、隠れ家で腹を空かしていた雷蔵は外から猫の声が近づくことに気付く。猫は大阪親分と残党だった。夜に行う総攻撃の作戦会議をはじめる。雷蔵は傍らから眺めていた。
「その19話」
カズヒサとイヨマンテは、棺桶屋の勘公を捕まえにいくことに。途中で、カズヒサは面白いものをみせてやろうと、カラスめがけて帽子の中から何かを投げる。カラスは瞬時地面に落ちる。驚くイヨマンテ。一方、隠れ家では大阪親分たちの作戦会議がつづいていた。四方から“田舎コール”を連発し、相手を逆上させておびき出そうという計画だ。雷蔵はガキのケンカやんけ、と呆れる……。予備のダイナマイトを三本だけ隠れ家に残し、いよいよ大阪親分たちは三途の猫町へと向かう。
「その20話」
大阪親分たちは山から三途の猫町を見下ろしていた。大阪親分は舞い上がりっぱなしで、一人で勝手に勝利を確信していた。一方、カズヒサとイヨマンテは棺桶屋の勘公のところに着いた。カズヒサは金槌を奪い、勘公の頭をどついて雷蔵の行方を問いつめる。やがて勘公の頭の釘はみんな埋まってしまう……。西鉄親分のシマでは、子分達が寝ずの見張りをしていた。そこに、突如方々から聞こえる「イ~ナ~カ~」の声。プライドを傷つけられた西鉄親分の怒りに火が着いた。西鉄一家はタケヤリを持って総動員。そこに大阪親分が投げたダイナマイトが命中する……。
「その21話」
とうとう大阪親分の命をかけた復讐が始まった。ダイナマイトの爆発音を聞き、街外れにいたカズヒサとイヨマンテは慌てて自宅に引き返すことに。大阪親分は作戦の大成功に笑顔が止まらない。さらに田舎コールを続けようと画策。西鉄側を逆上させる。西鉄親分もだまってはいない。“猫質”の又八に火の着いたダイナマイトを縛り付けて解放した。又八は父である大阪親分の所に向かって走り出したから、大阪親分一家は大混乱に。
「その22話」
父に助けを求める又八は転んで気絶……絶体絶命のピンチに。しかしその時、光る物が飛んできてダイナマイトの導火線を切った。大阪一家が助かったと喜ぶの束の間、ブーメランが当たり大阪一家はみんなノビてしまう。カズヒサのしわざだ。ノビた全員を生け捕りにする。その騒動から数日後。ブーメランの練習を続けていた雷蔵はようやく投げ方をマスターした。騒動以来、街は妙に静かになり、雷蔵は不安になる。そのとき勘公が街から戻ってきた。カズヒサが大阪一家を吊るし首にしているというのだ。
「その23話」
大阪一家は吊るし首という無惨な姿になっていた。カズヒサの案の「てるてる坊主賭博」というゲームの対象になっているのだ。カタギ猫と又八は雷蔵をおびき寄せるために生け捕りのまま。端からその光景を眺めていた雷蔵は行動を決意。景気着けに大阪親分の残したダイナマイトに火を付けて投げる。不意打ちに驚く西鉄親分一家。ついにカズヒサとの一騎打ちが始まる……。
「その24話」
雷蔵とカズヒサ、二匹の闘いが始まる。ブーメランをマスターした雷蔵はカズヒサの攻撃をあっさりかわす。やがて両者ともブーメランを手放し、素手の勝負になった。間合いを取る二匹。雷蔵が期を伺いカズヒサに襲いかかったとき、カズヒサが光る物を投げた。直後に雷蔵の額が切れる。カズヒサはブーメラン型の小型ナイフを持っていたのだ。雷蔵は一転ピンチに。しかし意を決してドブの中へ身を投じた。ドブ板の下でカズヒサを撹乱する雷蔵。隙をついてカズヒサの前に出た雷蔵は「必殺タマつぶし」の姿勢に。技は見事に決まった……。